④電話の向こうから聞こえた声
…つづき
どんな人か電話で伝えれば視ることが出来ると言われても、人様の個人情報漏らす訳にはいかんなぁ…などと思っていたら、イメージを送るだけでいいと言う。
それならば…と件の気になるご夫婦を一人ずつ思い浮かべてみる。まずはご奥方から…
「男の人が一人います」
次にご主人の姿を思い浮かべる。
「ヒ‥ァッ」
微かな悲鳴のような呻き声の後、しばしの沈黙。
「6人…いや、7人?…います…凄い…」
電話の向こうから聞こえる、彼女の押し殺したような声とその内容に、若干ビビる私。
「この方は凄く腰が悪い、特に右…お尻の上辺り。そして肩、左肩…首の後ろ辺り。あと目…本人は眼精疲労だと思っているかも知れませんが、違います。特に左目の奥が…」
それはまさしく、自分が聞き知っている通りのご主人の不調の数々だった。(目の不調は知らなかったけど、後日奥方にこの話をしたら、まさにこの通り!…だそうで。)
奥方については、特に何も言ってなかったけれど、気になったのでどんなもんだか聞いてみた。
「奥様の方は…大丈夫、すぐ離れます。」
やはり何の問題も無いみたい…よかった。
「でも、ご主人の方は…かなり厳しいと思います。もし施術するにしても、こちらへ連れてこようとすると、何だかんだと理由をつけて、絶対に近寄りたがらないでしょうから。」
どうやら、憑いている者たちにとって不都合な事は、本人の意思とは関係なく、さり気なく邪魔されるらしい。逆に都合のいい方へと、引っ張っていく。自分でも訳がわからずとる行動は、霊の干渉であったりするそうで、何となく思い当たる事も…なるほど。
精神的に隙のある、乗り心地の良い生身の体に、体を持たぬ精神体がタダ乗りする。憑かれるって、そういう事なんだそうだ。
「もし何とかしようと思うならば、ご本人ではなく、まずは奥様と話をした方が良いと思います。」
➖➖後日談➖➖
数日後、その話を奥方にはしたけれど、そういう方面でのアプローチには至らないまま時は流れ…
事態はさらに悪化して、ご主人はますます手に負えなくなり、奥方の苦渋の判断の末に司法の判断も手伝って離婚。
しばらく後にご主人の訃報を聞いた。
何でそんな所でそんな事に?と首を傾げたくなるような…まるで何かに引っ張られてしまったかのような、彼が運転する車の単独事故だった。
何だかんだで慌ただしかった身辺が落ち着いた頃、奥方が何の因果か仕事で訪れたその土地で、霊能力のある知人に言われたという言葉を後に聞いた。
やはりというか何というか…何となく想像していた通りの話であった。
この話をふと思い出す度に、電話の向こうから聞こえた『ヒ…アッ』っという呻き声を思い出しガクぶるのであった。(←そこ)